比較言語学の視点 テキストの読解と分析
吉田和彦著
大修館書店
定価: 2,310 円
19世紀に、言語学を科学として確立させたのは印欧語比較言語学だった。本書は、印欧語比較言語学において、どのようにテキスト(各言語で書かれた具体的な文書)と向き合い、どう考えて何を読み取るかを語る。
印欧語の西の果てのアイルランド語から東の果てのトカラ語までを扱うが、個々の言語の知識がなくても、仮説を立てて検証していく過程を見ることにより、ひとつの言語からはわからないことが2つ以上の言語を比較することによって解明されていく発見の興奮の現場に立ち会うことになる。
主要目次: まえがき
第1章 比較言語学の基本原理
1.1 印欧祖語とは
1.2 同系性の原理
1.3 規則性の原理
第2章 比較方法
2.1 音対応と祖語の再建
2.2 複数の音法則が生じた歴史的順序
2.3 新しい事実の発見の意味
第3章 内的再建法
3.1 基本的な考え方
3.2 印欧語の母音交替
3.3 ソシュールの提案
3.4 2音節語根の謎の解明
3.5 ヒッタイト語の解読と喉音理論
第4章 類推の役割
4.1 類推のプロポーション
4.2 パラダイムの画一化
4.3 文法形式の機能的位置の明確化
第5章 再建のひとつの例
5.1 共時的分析
5.2 比較言語学的分析
5.3 類推の使用に対する警鐘
第6章 リグ・ヴェーダのテキストから
6.1 リグ・ヴェーダにみられる韻律の問題
6.2 ゲルマン語派・バルト語派の語末音節縮約
6.3 喉音はいつ消失したのか
第7章 ホメーロスのテキストから
7.1 韻律からの逸脱――『イーリアス』第9書415行
7.2 喉音の痕跡
7.3 グラスマンの法則が生じた時期
7.4 比較言語学からみえること
第8章 初期ラテン語のテキストから
8.1 希求法接尾辞にみられる母音交替
8.2 不定詞の起源
8.3 中性複数名詞の主格・対格語尾
第9章 古期アイルランド語のテキストから
9.1 「川」を意味する名詞
9.2 喉音の音声的実体
9.3 貴重な対応の例
9.4 子音のダブリング
第10章 ゴート語のテキストから
10.1 接尾辞による派生のプロセス
10.2 例外のない音法則に対する例外
10.3 ヴェルネルの法則と連濁
10.4 中・受動態活用の特異性
第11章 リトアニア語のテキストから
11.1 対応の幻想
11.2 未来形の2つのタイプ
11.3 完了形の名残り
第12章 古教会スラブ語のテキストから
12.1 過去能動分詞の2つのタイプ
12.2 双数の語尾
12.3 古い完了形の痕跡
12.4 ソシュール、クリウォーヴィッチ、キパルスキーが残した問題
第13章 トカラ語Aのテキストから
13.1 印欧語族のなかでのトカラ語の位置
13.2 音変化と類推の関係
13.3 トカラ語とヒッタイト語にみられる保守的特徴
13.4 トカラ語におけるグラスマンの法則
第14章 ヒッタイト語のテキストから
14.1 ヒッタイト文献学の進展
14.2 古期ヒッタイト語にみられる特異な事実
14.3 特異な事実に対する比較言語学的解釈
第15章 象形文字ルウィ語のテキストから
15.1 ロタシズムの意味するもの
15.2 本格的なアナトリア比較研究の到来
15.3 再帰小辞の先史
第16章 リュキア語のテキストから
16.1 語頭の喉音
16.2 母音変化の問題
16.3 祖語の性格
参考文献
あとがき
索 引